ドレミの歌の憂鬱 4
(前回から続き)
冬の演奏会が無難に終ってほっとした。今回はコード進行を諳じることは出来ないまでも、一応音名のみは覚えられたたため、演奏前の不安は少なかった。
前回問題となった「日本人が歌えて覚えやすいソルフェージュ法」として、私は「西塚式音名」を使うことした。小学校の音楽教諭だった西塚智光氏が小学生にソルフェージュや楽器の演奏の指導をするために創り、音楽之友社「教育音楽 小学版」で1970年ごろ発表したもので、異名同音が無いのが特徴だ。
異名同音とは平均律における「ド♯」と「レ♭」の様に、同じ高さ(周波数)でありながら別々の名前を持つ音のことである。異名同音が無いのは、異名同音になる音に対して一つの音名しか使わない、名前を一つにしてしまうからだ。例えば、我々が普通使っている「ド♯」や「レ♭」(や「シ♯♯」)には、別の「デ」という発音の音名を使う。
普通の音名 | 西塚式音名 |
---|---|
ド | ド |
ド♯、レ♭ | デ |
レ | レ |
レ♯、ミ♭ | リ |
ミ | ミ |
ファ | ファ |
ファ♯、ソ♭ | フィ |
ソ | ソ |
ソ♯、ラ♭ | サ |
ラ | ラ |
ラ♯、シ♭ | チ |
シ | シ |
上の表で、西塚式では音名が17から12に減った。ウクレレに当てはめて考えると、弦を押える箇所に一つずつ一つだけ音名があるということになる。指板を押えた箇所が「ド♯」でも「レ♭」でもあって、どちらか分らないということはない。それは「デ」である。
この西塚式音名は小学生が音名で歌うために生れたのだから、もちろんそのまま歌える。「ド♯」を「ド」と発音したり、「ド・シャープ」と早口で歌う必要は無くなる。「デ」と歌えば良い。「歌って覚えることで暗譜する」という目的に、とても適していると思う。
西塚式音名を使って覚えるというのは自分が勝手にやっているのであって、ウクレレ教室の先生の指導ではない。だから、変化記号が付かない音名は西塚式でもそのまま「ド」「レ」「ミ」「ファ」「ソ」「ラ」「シ」であるのもありがたい。例えばトニック・ソルファ法では「シ」は「Te」なのである。
何か良い方法はないものかと調べるまで、西塚式音名というものを知らなかった。Wikipedia に触れられていなかったら、知らないままだっただろう。西塚氏の発表した具体的内容が分らず、小学教育の枠を越えてどれくらい汎用性があるものとして提唱されたのかが不明なのが残念だ。素人考えではシンプル過ぎて問題点もあると評価される気もするが、溺れる者は藁をも掴む状態の自分にとっては「小学生でも使える」、「教育現場で実績がある」というのは心強い。もっと評価されていいものだと思う。