岩手釣行2 デイ・ドリーム・ビリーバー

続き

花巻空港からバスで盛岡駅に向かった。花巻ではかなり強く降っていた雨が、高速道路を北上するうちに弱くなっていく。これなら今日から釣りが出来そうだと一安心。盛岡駅で千葉さんに拾ってもらって、そのままイベント会場であり、この釣行の基地となる工房に向かう。一年ぶりの再会。いろいろ喋っているうちに到着した。

雨は小雨。夕暮れまでにはまだ時間がある。急いで釣りの支度をして千葉さんに付いて川に入る。そこは沢山のゲストを案内してきた、高い実績を持つ一級ポイントに違いない。「さあどうぞ」と言われて川に立つが…。

憧れの岩手の渓流に遠路遥々やって来たというのに、何処にフライを投げればいいのか、全くイメージが浮かんでこないのである。この違和感は何なのだろうか。たぶん、水深、水流の速度、流れの落差、川岸の様子や、川の中や水面に出ている石の様子などのそれらの組み合わせが、自分が今まで釣りをして来た場所のそれと違っていて、今までの『引出し』が使えないのだ。

この川を知り尽くしている千葉さんが「ここで」と言う以上、魚が居ないはずが無い。だから冷静に考えれば、何処に投げて良いのか分からないのなら、あらゆる所に投げれば良いのである。しかしこの時は、遠征の興奮と、その日からお世話になる千葉さんの期待に何とか応えたいという余計な思いから、『頭がドングリ』状態に陥っていた。その時の様子を見ていた千葉さんは「丁寧な釣りという印象を受けた」と書いておられたが、あれは丁寧にポイントを探っていたのではなく、思考回路がパニックを起こし、壊れた玩具の様に同じ行動を繰り返していただけなのである。

それを見かねた千葉さんが、岸際を攻める様にアドバイスをしてくれる。すぐ後に自ら有効性を実証することになったその助言も、この哀れな釣り人の頭をクリアにしてくれた訳ではなかった。そこのポイントは岸際を含めてかなり浅いのである。この川の魚はこんなところに? しかし今まで自分が投げた場所から魚が出ない以上、そのアドバイスにすがるしかない。何回かその浅い流れを流すと、岩手最初の魚は私のフライに出た。 

岩手最初の魚



何とか一匹釣り上げ、ホッとした。しかし、それですっきりしたかと言えばむしろ逆だ。釣れたイワナが良型だったからだ。自分の感覚では、こういうポイントから出るのはかなり小さい魚だ。もちろんアドバイスを疑っていた訳ではないが、実際釣れてしまい、戸惑いが大きくなった。

釣りまくっている千葉さんに対して、この日の私の釣果は結局その一匹のみ。『パラダイス』に立ちながら、自分の釣りがまったく通用しない。明日以降、チャレンジングな釣りを求められることは明らかだった。

続く