『KING OF FLY』

先日、私の巻いたフライを見た方から感想を頂いた。

 「つまり『フライ』ってのは『ハエ』のことですか?

…この人がそういう印象を持ったは、私のフライを巻く腕前の所為であって、実際は『フライ=ハエの毛鉤』ではない。(フライの中にはハエを模したものも無くはない。)このとき涙を拭いつつ思い出したのは、平谷美樹(ひらや・よしき)著の短編小説、『KING OF FLY』のことである。

フライ・フィッシング関連の雑誌に、その名もズバリ『フライの雑誌』というものがある。大抵、一般の書店では扱っておらず、その筋の釣り具屋に行かないと入手できない(そういう意味では)マイナー誌ではあるが、ハウツーが主な内容である他誌とは一線を画し、買っただけでちょっと偉くなった気がする様な、『日本フライ界の権威』的雑誌である。

ある日、そんな『フライの雑誌』を読んでいると短編小説が載っていた。それを読み進むうち、「むむむ、これは変だぞ」と…。釣り雑誌に小説が載っても不思議じゃないが、何が変って、釣り雑誌に不釣り合いな程にクオリティーが高いのだ。フライ・フィッシングの描写も自然で、小説としても面白い。その書き手は、中学校教諭の肩書きの平谷美樹氏であった。

平谷美樹氏の『フライの雑誌』に掲載された幾つかの作品の一つである『KING OF FLY』は、或る大物の魚を狙い続けてもどうしても釣ることが出来ずに苦悩する男が、魔性の者に付入られてしまう話なのだが、この中で、ハエのフライが登場する。“fly”を辞書で引けば一般的な意味では『ハエ』であり、“KING OF FLY”とはフライ・フィッシングのショップの名前であると同時に…

氏はその後『エンデュミオン・エンデュミオン』でメジャーデビューを果たし、『エリ・エリ』で第1回小松左京賞大賞を受賞と、大活躍されているそうである。SF系作品が文庫本で出たら読みたいと思っているのだが、今の所、文庫本で出ているのは怪談物だけの様で、躊躇している。ただでさえ他の作品『恐怖の一夜』のお陰で、釣り場で時々怖い思いをさせられているのに…

参考リンク:
平谷美樹・私設ファンページ
角川春樹事務所-平谷美樹ショートショート on Web